|
藤野先生
ごくごく短い、数ページの小説というかエッセイというか。ごく簡単に読める。でも、ひとたび医学に関心を持ったら一度は読んでほしい本。後に文学者・評論家として中国がどうあるべきかを強く考え、書き綴りつづけた魯迅には、若いころに明治時代の日本に留学していたときの大きな決断があった。それが仙台医学校(現在の東北大学医学部)の学生だったときに医者になることをやめて、文学の世界に向かっていった時であった。
人間にとって本当に大事なのは何か。「自分が健康ならそれでいいのか、自分がうまくやっていれば、私たちはそれでいいのか」という問いかけが魯迅の思想の底にある。人びとが自分たちを見直して、どのように生きるべきかを真面目に考えるような社会や国でなかったら、身体が丈夫なだけでは実はもっと不幸になってしまう。その決断の時、医学生だった魯迅は、病気になった人間の世話をする医者になるよりも、もっと大事なことをする人間になるべきだ、と考えたらしい。
中国には「小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す」という言葉がある。個別の病気ではなく、病気の人だけではなく、一人ずつではなく、世の中まとめて面倒見ようという気持ちが公衆衛生学の発想にある。
|