|
最後の診断
病理医が主人公の一人であると言う点で、珍しい医学小説。と言っても、物語の本質はメロドラマであり、米国の大病院の医師たちの「生態」を赤裸々に描いた、一種のゴシップ小説と言うことも出来よう。我が国の若い読者がテレビドラマなどから憧れを抱くよう仕向けられる、愛と権力を欲しいがままにし、その狭間に揺れる米国の医師像がここにある。
唯、一般には馴染みが薄いであろう「病理医」という職種が、かなり正確に描かれている点は評価できる。分子医学が発達し、高度な画像診断技術が普及した現在にあっても、大部分の組織病変についてそれが良性か悪性かを判定するのは病理医であり、病理診断は今に至るまで「最終診断」の地位を保ち続けている。
しかも、病理医が下す最終診断には、客観的な「科学的根拠」が殆ど無い。このようなことを言うと多くの読者は驚くであろうが、病理診断とは突き詰めれば、「同じような組織像を先人がどう診断したか」を想起することであり、病理医は顕微鏡を覗きながら、自己の脳内の画像ファイルを検索しているに過ぎない。自らの下す診断に客観的な科学的根拠がないからこそ、葛藤が生じ、ドラマが生まれる。それを見抜いた著者ヘイリーの慧眼をこそ、賞賛すべきであろう。 ※「書評執筆者からのコメント」があります。執筆者ページも併せてお読みください。
|