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地べたで再発見! 「東京」の凸凹地図
本書は凸凹地図なんていうトボけた題名がついているが、内容は極めてしっかりした自然地理の教養書である。本書を貫く地形の見方は、40年ほど前に刊行された貝塚爽平先生の「東京の自然史」に基づいていると思われる。当時、初学者として地形学を勉強しようとしていた私は、「東京の自然史」から、自分が住む武蔵野の台地が、氷期・間氷期という地球規模の自然環境変化サイクルの中で形成されてきたことを知り、まさに目からウロコが落ちるという思いを実感した。
東京の地表は極度に人工改変を受けており、また、密集したビルや住宅のため遠くを見渡すこともできず、自然が作った地表の凸凹は日常生活の中ではほとんど見過ごされ、誰も気がつかなくなってしまっている。本書は、それを気づかせる手引き書でもある。貝塚先生以来蓄積されてきた武蔵野台地の自然環境変化に関する知識を土台に、陰影図やアナグリフなどの地形を高所から立体的にみる技術や、歴史情報などを取り入れて、東京の地べたを構成する武蔵野台地の特徴や成り立ちを分かり易く説明したものである。
もっとも、地形の凸凹なんて言うのは空気と同じで、普通は誰もその存在を意識しない。あるいは、認識していてもなぜそれがそこにあるのかと言った成り立ちは誰も考えないだろう。地形の凸凹やその成り立ちを知るなんて単なるマニア的な興味と思われよう。しかし、最近の異常気象は都市にゲリラ的な集中豪雨と内水氾濫を引き起こし、大地震では長周期振動や強震動などの異常な揺れが生じることが分かってきた。これらは地形の凸凹と大いに関連があり、凸凹に関心を持つことは安全・安心な社会を築いていく上で重要な要件である。。
本書は大きく3つの部分で構成されている。前半は東京の地形についての解説で、実際の台地を例に、地形が形成されていく概念・原理が紹介されている。氷期・間氷期、海進・海退と言った難しい言葉も出てくるが、地形用語集によって、分かり易く解説されている。ただ、この用語集では本来同じものである台地と段丘が別項目として並べられ、両者が同じものを指すことが全く触れられていないなど、いくつか説明に不足があるのが残念である。
後半、頁の大部分を占めるのは本書で3D写真と呼んでいるアナグリフ(赤青写真を重ねたもの)による、空中写真の立体視である。付録の赤青メガネを使って、誰でも飛行機から下を見るように地形を立体的に見ることにできる。一枚の写真では屋根の並びがどこまでも一面に広がっているだけなのに、立体視によって台地とそれを刻む谷の凸凹が明瞭に認められるのだ。初めて立体視できた人の「ワー」という歓声が聞こえるようだ。少し苦言を呈すると、カラー写真を白黒化して作った撮影時期の新しい写真はコントラストが弱くなっている。このため全体に赤みがかり立体像に「もや」がかかってしまったのが残念だ。
最後の部分は標高メッシュデータ(DEM)を使ってコンピュータで作成した陰影地図を利用して、武蔵野台地の特徴的な地形とその成因を紹介している。渋谷ではなぜ地下鉄が高架になり、山手線の上を走っているのか、中央線のお茶の水駅はなぜ狭い谷の中にあるのかなど、東京の誰でも知っている代表的な地点での、奇妙な地形の特徴が成因を基に解説されており、本書の最もおもしろい部分である。陰影図は起伏の違いが明瞭に表現され、また、説明はコラムを含めて地形の呼び名や地名の由来が正確に述べられており、巷の雑学事典とは格の違いを見せつけている。
本書は東京の地形の成り立ちを陰影図やアナグリフを利用して分かり易く説明したものであり、これによって、電車の窓などから見える外の景色の意味が良く分かるようになる。自然地理学とはまさにこのようなことを理解する学問なのである。このような知識や見方は、我々の日常生活を豊にするだけでなく、防災など社会の安全・安心にも深く関わるので、本来高校教育でしっかり行って欲しいと思う。だが、受験に役立たない地理や地学は高校教育では冷遇され、今や風前の灯火である。地学教員が赴任していても受験教育優先で地学の授業が開講されない学校まで出る始末だ。
本書はこのような状況の中での自然地理学とって一条の光明である。多くの方々に本書をごらんいただき、地形の凸凹には我々の生活に大きな意味があることを理解していただきたいと願うものである。
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